女子プロレス団体マリーゴールドでは現在、2ブロック制のシングルのリーグ戦が行われている。旗揚げから3ヶ月、両国国技館大会、ジュリア選手の退団と渡米と短い間に大きなニュースが続いた。そしてこれからが、プロレス団体マリーゴールドの日常になる。
桜井麻衣選手の立ち振る舞いがものすごく自信に溢れていた。もともと貴婦人様なので余裕たっぷりではあったのだけど、敬愛するジュリア選手から離れて、更に覚悟と決意が深まったのかもしれない。かつてDDMで共に戦い、現在はスターダムの最前線で戦い続ける舞華選手も「ジュリアはすごく自分に自信を与えてくれた。舞華はいいものもってるんだから自信持てよって言い続けてくれた」と話してくれたけれど、ジュリア選手はそういう、傍らにいる人を勇気づけてくれる人なんだと思う。桜井選手もどれほどジュリア選手から鼓舞されて、プロレスラーとして生きる覚悟を決めたのかと思う。
"女子プロレス界の人間国宝"と呼ばれ続けて久しい高橋奈七永選手と、ポジラ選手の公式戦が凄かった。マリーゴールド旗揚げ戦に来日した謎の外国人選手、ポジラ選手は大変なインパクトで、若くて大きくてすさまじいパワーの持ち主でありながら、スペースローリングエルボーまでやってしまう。この日もショルダータックル一発で奈七永選手を吹っ飛ばし、場外で椅子をセッティングしてから殴り合うなど奈七永選手を散々翻弄したけれど、最後は奈七永さんが執念の丸め込みで勝利した。奈七永選手は両手を挙げてめちゃくちゃ喜んだ。
私はこういう奈七永さんが大好きだ。人間国宝と呼ばれキャリアも28年を数えるけれど、今でもどんな試合にも全力で挑み、先輩だろうが後輩だろうが初めての外国人選手だろうがビッグマッチだろうが小さな会場だろうが、同じように勝てば喜び、負けたらめちゃくちゃ悔しがる。そんな奈七永選手のパッションに触れたいと思うレスラーは今でも引きも切らない。記者席の正面あたりの客席で奈七永さんと同じくらい両手を挙げて盛大に喜んでいるお客さんがいるな、と思ったら、中西百重さんだった。後でばったりお会いしたら「いやあもう本当に嬉しくて盛り上がっちゃいました」と笑顔だった。ナナモモの絆は熱い。
メインは林下詩美vsMIRAIの公式戦。詩美選手は誰が見てもこの新団体のエース候補のはずだ。スターダムを辞める覚悟をした理由を尋ねたら、「自分のためにプロレスをしたくなった」と話していた。ユニットのリーダーとして、後輩の面倒を見て、ユニットとしての存在感を高めて、ということにここ数年集中していたけれど、そろそろまた自分のためだけにプロレスをしたい。それが、新団体を選んだ理由だった。なのに、旗揚げから3ヶ月、ジュリア選手の退団などの大きなニュースがあったとはいえ、詩美選手は実績でも、話題性でも、最前線にいるとはなかなか言いがたい。どうしてなんだろう詩美選手、と思っていた。
メインイベンターとして登場した詩美選手のオーラには少しの陰りもなく、試合内容にも見応えがある。MIRAI選手の魂込められたファイトもいつも以上に魅力的。実はスターダム時代には1度しか対戦経験がなかった、というこの顔合わせだが、今日はMIRAI選手がその渾身のラリアットで詩美選手をねじ伏せて、こう言った。
「やっと林下詩美に勝てたよ。でもここにいる林下詩美はMIRAIが越えたかった100%の林下詩美じゃないよな? 林下詩美はこんなもんじゃないよな?」
試合後のバックステージで詩美選手は「ここしばらく不安を感じていたのは本当のこと」と打ち明けた。限界を自分で決めたことも進化を止めたつもりもないけれど、心に不安を抱えていたのは事実で、それをMIRAI選手に指摘されたのはすごく刺さったんだと。
詩美選手が不安だった、と打ち明けることが出来て良かったんだと思いたい。そしてそれをMIRAI選手が打ち明けされてくれたことも良かったんだと。ずっとこのまま無理していたら、なんのために新天地にきたのかもわからなくなってしまうから、そうでなくて良かったんだなと思いたい。
伸びしろがある選手がたくさんいて、ものすごく強い王者のSareee選手が所属選手を刺激し続け、この先に120%の林下詩美選手が帰ってくる。麦わら帽子の季節が過ぎたら実りの秋がやってくる。