飯伏幸太が見る新しい夢のかたち

sayokom2013-10-08


プロレスラーに望むことは何ですか、と聞かれるたびにこう答えてきました。

「レスラーが怪我なく、自分の望む形でリングに上がり続けること。」

今回、飯伏幸太選手が異例のDDT新日本プロレス両団体所属という発表を受けて、改めてこのことを強く感じています。

何のバックボーンもなく、当時はちょっと変わったいちインディー団体だったDDTでデビューし、さして特別扱いもされないまま新人時代を過ごし、その身体能力で少しずつ知られるようになり、他団体に呼ばれ、メジャー団体のリーグ戦に出場し、優勝し、ベルトを巻き、路上プロレスというジャンルを切り開き、プロレス大賞に毎年名前が挙がるようになり、DDTのゴールデン☆スターからプロレス界全体のゴールデン☆スターになったいぶっさん。

新日本プロレスが緊急会見を開くといい、その場に新日本プロレスの菅林会長と飯伏選手、更にDDT高木社長の3者が並んでいるのを見た時、ああ、ついにこの日が来てしまったのかと思いました。DDT飯伏幸太は、新日本プロレス飯伏幸太になってしまうんだなと。ここ数年、いつかそんな日が来てしまうんじゃないかと恐れ、いやそれが飯伏選手のためになるんだったらそれも仕方ないのかなとか、思いあぐねていたその日が来てしまったのかと。そう覚悟したDDTファンは多かったのではないかと思います。

しかしそうではなかった。高木社長の口から出たのは、「飯伏幸太DDT並びに新日本、業界初の2団体所属の選手として今後活動していくことになりました」という言葉でした。最初、よく意味がわからなかった。二つの団体に所属? それってどういうこと?

その詳細は記者会見『飯伏幸太選手が、史上初のDDT&新日本プロレス “2団体所属選手”に!! 10月14日両国大会で所属初試合!!(会見全文アップ!!)』で明らかになった通りです。これまで通りDDTの試合には全部出る。そして新日本のビッグマッチにも全部出る。興行はなるべくかぶらないように今後調整する。DDTではこれも初の3年複数年契約、新日本は単年契約。中澤マイケル選手帯同はひとまず却下。

何が変わって何が変わらないのか。それはきっと、今後おいおいわかっていくのだと思います。並んだ条件を見ているとそれほど変わらないのかもしれないけれど、菅林会長が「見てみたい」と言っていたとおり新日本の会場で赤いライオンジャージを身につけている飯伏選手を見かけたら、たぶん複雑な気持ちになると思う。それは正直な今の自分の感情です。

でも、飯伏選手は新日本所属を選んだと同時に、DDTを去ることも選ばなかった。大社長も<俺様の団体経営学EX>35回 異例の飯伏幸太2団体所属についてで明らかにしていますが、今回飯伏選手は何より、DDTのファンのことを気にかけていた。自分がDDTを見捨てていくと思われるんじゃないか、あいつメジャーにいっちゃったんだな、そう思われるんじゃないかということに心を痛めていた。もちろん新日本プロレスに完全移籍して全戦参戦することへの自信がなかったという部分もあるし、DDTにいないと出来ないこと(路上プロレスとか)ことがあるからというのもあるけれど、自分をずっと応援してきてくれたDDTファンのことは裏切りたくない、というのも真意なんだと思う。あまりそういうことを言わない人ではあるけれど。

今回の記者会見を受けて思い出したのは、今年のDDT両国大会初日のメインイベント、男色ディーノvs飯伏幸太の試合後の2人のやり取りです。

男色:飯伏君に質問があります。何でプロレスやってるの?
飯伏:楽しいからです。
男色:奇遇ね。私も同じよ。じゃあもう1つ。何でDDTにいるの?
飯伏:好きだから。大好きだからです。

私はこの時のこの言葉を信じている。そして、DDTという団体をここまで育て上げ、飯伏幸太という繊細な天才を守りそして世に出し、門外不出のオカダ・カズチカを両国に上げて飯伏との対戦を実現させた高木三四郎という人の手腕と交渉術を信じています。

飯伏は過保護だ、何で飯伏ばかりが特別扱いなんだ。そういう声もあると思います。でもそれには正面切って答えたい。それは飯伏が特別だからです。飯伏幸太というプロレスラーが、自分の身ひとつで築き上げた信頼、驚き、感動、震え、畏怖、それが彼をここまで特別な存在にしているのです。もちろんそれと引き替えに失ったこともあるだろう。でも飯伏幸太が明日を顧みず飛び続け走り続けプロレスに身を挺してきたからこそ、彼を業界一の団体が欲しいといい、そしてDDTはその業界一の団体と対等に交渉出来るまでの地位に登り詰めた。

飯伏幸太の今回のこの扱いについて、こういう道も開けるんだ、という一つの道標になればいいと思うし、何だふざけんなよ、という刺激になってもいい。そしてそんな夢を持ったり悔しがってる選手を、それぞれのファンが応援すればいい。

「自分の望む形でリングに上がること」という私の願いは、そもそもプロレスラーの目標が人それぞれであるというところから始まっています。これまで、インディーからメジャーに旅立っていった選手もたくさんいた。俺はメジャーになるんだ、厳しい生存競争と過酷な巡業を勝ち抜いてトップに立ちたいんだ、そういう選手は是非それを目指して欲しい。いやそうじゃない、俺は小さな団体でもいいから、ファンに近いところで毎日プロレスをしていたいんだ。地方のアットホームな会場でおじいちゃんや子供達を喜ばせたいんだ。それもとても気高いことです。

DDTにいなければ出来ないこともある。そしてもちろん、新日本プロレスでなければ叶えられない夢もあるだろう。飯伏幸太が今回、DDTを選び、そして新日本プロレスを選んだのであれば、私は彼のその行く道をこれまで同様追いかけるだけです。

さくらえみ選手がかつて飯伏選手を称して言った、「夢が人の形している」の夢が、またひとつ先へ進んだ。これからもまた、飯伏幸太の見る新しい夢を、追いかけていける喜び。

もうちょっと、いやもっと先まで。飯伏幸太が目指す高みを、この目で見たいと思います。