DDT6.28後楽園~あの日からずっと繋がっている

ほんとうに、あっという間の出来事だった。

DDT6.28後楽園、セミファイナル。この日は8.23両国大会のメインイベントの挑戦者を決めるKING OF DDTトーナメントの準決勝と決勝があり、その間に組まれているセミファイナルにそれほどの大きな意味があるとは思いもよらなかった。KUDO&マサ高梨&MIKAMI組vsHARASHIMA&ヤス・ウラノ&彰人組の6人タッグで、確かに現王者のKUDO選手が入っているけれど、つい先ほど両国で棚橋弘至戦が発表されたHARASHIMA選手がいつも以上に充実しているな、と見ていたらヤス選手が高梨選手を一瞬の間に丸め込んでしまい勝利。ということは高梨選手が保持していたいつでもどこでも挑戦権がヤス選手に渡ってしまい、それを行使すると宣言して急にKO-D無差別級タイトルマッチKUDOvsヤス・ウラノが始まり、めくるめく展開の中で突如「BAD COMMUNICATION」が流れて大家健選手が飛び込んできていつでもどこでも挑戦権を行使すると宣言し、え、まだ試合中なんですけども?と思っていたらなんと3wayが認められ、つまりKO-D無差別級選手権試合KUDOvsヤス・ウラノvs大家健のタイトルマッチになってしまい、ということはKUDO選手からでなくても誰かが誰かをフォールした段階で試合は決してしまうということだ!

動揺と混乱と興奮の中で大家さんがヤス選手を炎のスピアで吹っ飛ばし、声援と悲鳴の中で松井レフェリーがマットを3つ叩くのはほんとうに、あっという間のことだった。第52代、KO-D無差別級王者、大家健誕生。記者席の私たちも震えました。

そこへぬらりとリングに上がってきたKUDO選手が大家選手のアジテーション用のマイクを踏みつけ、さっきまで王者でありながら保持していた「いつどこ挑戦権」を使うと宣言、ああ!KUDO選手がこれ持ってたんじゃないか、という安堵と落胆の中でまたKO-D無差別級選手権試合、大家健vsKUDOのゴングが鳴り、ダイビングダブルニーで大家さんをマットに沈めるまで、これも一瞬の夢のような出来事でした。

書いてしまえばほんとうにあっという間の出来事で、わずかな時間でまたベルトは元のKUDO選手の腰に戻ったけれど、ここにはたくさんの思いがつまっていた。喜びも悔しさも懐かしさも感謝も。

全試合が終わった後でバックステージのKUDO選手に「大変な一日でしたが」と声をかけると、大変だったとか何だとかそういうこと以上の感情をKUDO選手が吐き出し始めた。

KUDO:KO-Dの試合はもうたぶん10回以上やってますけれど、今日が一番感慨深いというか。大家、ウラノって20年ずっと一緒なんです。

そうだった。この3人は同じ時期に同じ大学のプロレス研究会にいて、同じようにプロレスラーを目指した仲間だった。3人とも人慣れしたタイプではなく、饒舌でもない。そんなに友達も多くない。でも、そこにプロレスがあったから一緒にやってこられたし、一緒に夢を見られた。KUDO選手がキックボクシングの試合で後楽園のリングに立った時には、二人してチケットを買って応援してくれた。別々の道を歩んだこともあったけれどいま同じリングで、しかもかつてチケットを3人で買って後楽園に見に行った頃より格段に大きな団体になったDDTで、能力の高い選手が集まっている中で自分たちにしか出来ないタイトルマッチを戦うことが出来た。普段あまり感情をあらわにしないKUDO選手が目を赤くしてとめどなくこぼれるように語った思いは胸に響きました。

この3人で頂点を目指す戦いが出来た。そして大家さんもほんの一瞬だったけれど、その頂点に立った。大家健も頂点に立った人にしか見えない景色を見たんです。KUDO選手は冗談めかして「なかったことにしましょう」と言っていたけれど、なかったことなんかにはならない。この先何年、何十年経っても、KO-D無差別級の歴史の中に「第52代 大家健」の名前は永遠に刻まれる。あの日からずっとこの日まで、3人の時間は繋がっている。

そしてその混乱に先立つこと小一時間、ここにもずっとやってきたことがひとつ新しい形で実を結ぼうとしている人がいる。HARASHIMA選手だ。今年も新日本プロレス棚橋弘至選手が両国大会に参戦することが発表され、その対戦相手として流れたテーマ曲がHARASHIMA選手だった時にはこれまた震えた。いや、全く予想が付かなかった。

というのも、HARASHIMA選手はこれまでずっと、DDTの中だけで戦ってきた人だった。もちろん年越しプロレスや三分の計的なお祭りで他団体と絡むことはあったし、学生時代の先輩である真壁刀義選手とは戦いもしたし組んだりもしたけれど、飯伏幸太やチームドリフがメジャー団体に出撃して経験を積んだり名を挙げたり、もっと昔にはKUDO選手やMIKAMI選手がアメリカに遠征にいったりしている中で、ほぼDDTの中だけでひたすらにその強さを磨き続け、DDTを守り続け、そして絶対王者と呼ばれるまでの地位を確立させた。他団体に出るよりももしかしたらこれは、難しいことだったかもしれない。

なぜHARASHIMAは外で戦わないのだろう?というのはたぶん多くのプロレスファンの疑問であったろうし、関係者でもそう思っている人は多かった。私も何度かインタビューで尋ねたことはある。そのたびにHARASHIMA選手はこう言っていた。

HARASHIMA:うらやましくないといったら嘘になりますけれど、でも僕はDDTが好きだし、DDTの中で強くなりたい。人にはそれぞれ役割があって、僕はDDTでもっともっと強くなりたいんです。

誰もが知る負けず嫌いで、練習熱心。だからこそ、他団体に出て自信をつけたり結果を出したりしてDDTに帰ってくる仲間たちに、HARASHIMA選手は負けたくなかったはずだ。その思いがまた、HARASHIMA選手をもっともっと強くしたのかもしれない。

そんなHARASHIMA選手に、棚橋弘至という最高級の相手がやってきた。誰もが信じて疑わないこの国の、いや海外からも認められるプロレス界の大エースで、スターで、百年に一人の逸材だ。

思えばこの二人はよく似ている。学生時代にプロレスのルーツがあり、ただひたすらにプロレスを信じ続け、自分が強くなる道を愚直に歩んできた。華があって生まれながらのベビーフェイスで、そしてとてつもなく負けず嫌い。

去年は竹下選手相手にその横綱級の存在感を見せつけた棚橋選手。しかし今回は両団体のエース対決だ。ものすごくわくわくするし、そしてものすごくヒリヒリした試合になるかもしれない。HARASHIMA選手にとっては自分がこれまで信じてDDTで培ってきたものが、間違いじゃなかったことをその手で、その身で証明して欲しい。それを切に願っている。舞台はDDTの両国大会だから。

DDTに参戦して3年、去年は総選挙で念願の選抜入りして入団した坂口征夫選手がその力で両国のメインの座を掴んだのもまた、努力と信念のたまものだった。ちゃんと、みんな形になる。いつかきっと形になる。それを私たちは応援できる。それが嬉しい。

ひとりひとりのリングで流した涙や願いや誓いが、実を結ぶ瞬間を目撃できる喜び。それを全身で五感をフルに使って体感した、今日という日でした。