葛西純「狂猿」という映画。

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葛西純選手のドキュメンタリー映画、「狂猿」を試写会で拝見した。少し前に「ノンストップ」という韓国映画を新宿の映画館で見た時にその予告チラシが貼られていて、おお、完成したんだな、見てみたいなと思っていたところだった。

 

この映画にはわたしたちプロレスファンがよく知っている葛西純と、知らなかった葛西純が両方存在する。デスマッチのカリスマでリング上で血塗れになりながらニヤリと笑う葛西純と、身体の傷は癒えても試合に向けてモチベーションが上がらない、と小さな声でつぶやく素顔の葛西純。自らの体を蛍光灯で切り刻む葛西純と、小さな娘の手を引き陽の当たる公園を歩く葛西純。そのどちらも本当の葛西純だ。

 

葛西純について語るメンバーがすごい。Mr.デンジャーの松永光弘大日本プロレス社長の登坂栄児。藤田ミノル伊東竜二竹田誠志といったデスマッチファイターから、新日本プロレスのロゴをバックに語る本間朋晃。そのいずれも、的確に、葛西純というプロレスラーの魅力を捉えている。

 

そして映像に圧倒される。いつも会場で見ているデスマッチ、そしてサムライTVのニュースや中継で見ているデスマッチと、全く違って見える。まず画角が全然違う。試合全体を見せるためのプロレス専門チャンネルとは異なる、ものすごいアップの映像。画面いっぱいに広がる選手の顔、背中。セコンドの位置から見ているような足元ギリギリの試合。同じ試写を見ていた吉野恵悟レフェリーが「あの映像は僕らが見ているのと同じ近さですよ」とおっしゃっていた。そう、カメラが近い。それは実際の距離感も、そして葛西純選手という対象との心の距離感も。監督はどれほどの信頼関係を築いていらしたんだろうと思う。

 

またこの映画は、コロナ禍に見舞われた2020年をどうプロレス団体FREEDOMSが生き抜いたか、という貴重な記録映像でもあると思う。決断力があり責任感のある佐々木貴、若く身体能力が高い王者の杉浦透、若手もみなひとりひとり画面の中で息づいている。超満員のお客さんで盛り上がる2019年のブラッドクリスマスから、興行中止、そして再開。

 

葛西純は確かにカリスマだけれど、悩んだりとまどったり、愚痴をこぼしたりもする。それでいてリング上では誰にも負けない光を放つ。超人ではないからこそ、その凄さが際立つ。わたしたちはデスマッチで生き抜いた葛西純がリングを降りて愛する息子のもとに一目散に走っていったシーンを覚えているし、実現しかけては何度も何度も延期した伊東竜二戦が実現した後に「俺っちは引退も考えたよ」と涙声で伊東に語りかけたことも覚えている。それでも葛西純は生き抜いてきた。この映画のサブタイトルは、「生きて帰るまでがデスマッチ」だ。

 

懐かしい試合映像もたくさんある。サムライTVの25年分の貴重な資料が生かされている。葛西選手の大ファンはもちろん見るだろう。そうでない人たちにもこの映画が届いてほしい。今日の試写会の舞台挨拶で佐々木貴選手がいいことを言っていた。

 

「この映画はいろんな訴え方が出来ると思います。プロレスをよく見る人、プロレスをたまに見る人、プロレスを全然見ない人。いろんな人に見て欲しいです。」

 

わたしはデスマッチを見ると、自分が生きていることを確かめているような気持ちになる。勝った選手も敗れた選手も自分の足でリングを降りられると心から良かったなと思うと同時に、自分も生きてこの試合を見届けることが出来て良かったと思う。この映画も間違いなく、その生き残る喜びを思い出させてくれるし、改めてプロレスラーにはどうぞ元気でいて欲しいと願う気持ちが強くなる。

 

「狂猿」。5月28日(金)からシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかで公開です。早くみんなに見て欲しい。そして早くみんなと語り合いたい! ほら、最近プロレスの試合見た後にみんなでわいわい言い合えないじゃないですか。だからぜひこの映画を見て、みんなで語り合って欲しい。プロレスの素晴らしさを、デスマッチの尊さを、葛西純選手と同じ時代に生きて葛西選手のデスマッチを見られた喜びを。

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