目に、耳に、心に突き刺さる格闘探偵団 ~10.23格闘探偵団2 新宿より愛をこめて


バトラーツは青春みたいなプロレス団体だった。若いメンバーが集まって、強くなることにも楽しむことにも全力で、だからこそ面白くて、だからこそぶつかり合って、傷ついて、ばらばらになって、終わりを迎えた。バトラーツの旗揚げとサムライTVの開局は同じ時期だったから、当時まだよくわからない媒体だと思われていたサムライのことも、バトラーツは快く受け止めてくれてたくさん取材をさせて頂いた。

そんなバトラーツに間に合わなかった阿部史典というプロレスラーが、後期バトラーツを彩り最終的に団体にけじめを付けた澤宗紀選手きっかけでこの世界に入り、源流を辿って石川雄規選手に弟子入りし、同志となった野村卓矢選手と共にバトラーツの過去映像をすり切れるほど見て、練習して、いつか自分たちで格闘探偵団を復活させたい、とその時を待っていた。そしてようやく実現したのが、去年の興行だったのだ。超満員の新宿FACEで現在進行形のバトル&アーツを見せた阿部選手は、「自分の人生賭けて面白いと思っていたことを肯定してもらって、こんなに素敵なことはないなと思った」と去年を振り返る。

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そして迎えた1年後の今日。ラヴェルのボレロがかかる客入り中の薄暗い新宿FACEのリングで、石川雄規選手が若手とスパーリングをしている。こうして技術は紡がれていく。

第1試合は佐藤孝亮vs佐藤光留。去年のメインイベント、阿部史典vs野村卓矢の試合でセコンドに付き、試合後には試合をした当事者たち以上に号泣していたのが佐藤孝亮選手だった。「あれを見て自分は涙が引っ込んだ」という野村選手だったが、当時心身の不調で長く欠場していた佐藤孝亮選手の心を、深く強く揺さぶる試合だったのだろう。「涙を流すのはデトックスだから良かったと思いますよ」と野村選手は言っていた。

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入場してきた孝亮選手は、胸のバトラーツの「B」のロゴを誇らしげに見せつける。石川雄規選手から澤宗紀選手に、澤選手から阿部選手に、阿部選手から野村選手に手渡されたBのバトンが、孝亮選手の世代にまで受け継がれている。対戦相手は百戦錬磨かつ、野村選手曰く「信念があって、信じられないくらい図太い人」と評価する佐藤光留選手だ。そんな光留選手に必死で食らいつく。孝亮選手の痛みが、客席に伝わる。でも、その痛みは、苦しみは、リングに上がることが許されている者だけが味わうことが出来る痛みだ。去年は上がれなかったリングに、今年上がることが出来た孝亮選手だから、味わうことが出来た痛みだ。

試合後に「正直怖かったですよ」と痛む足を引きずりながら、孝亮選手はきっぱりと言った。「でも、去年出られなくて悔しい思いをして、今年誰よりも楽しんでいるのはこの私です。メインイベンターよりも」

セミファイナルは日高郁人vs藤田ミノルのシングルマッチ。二人でいま2本ずつシングル王者のベルトを持ち、何度目かの全盛期を迎えている。「相方タッグ」として一時代を築いたこの二人も、若き日々を一緒に越谷のバトラーツ道場で過ごした。かつて大切な一騎打ちをぶち壊され、二人で号泣したこともあった。今から25年も前のことだ。

かつては軽快でスピーディな連携や合体技が持ち味だったこの二人も、キャリアを重ね、歴戦のダメージもあるだろう。華麗さよりも、必死さ、泥臭さにむしろ心を揺さぶられた。若い選手には若い選手の、キャリアを重ねた選手には重ねてきたからこその必死さがあり、見るものの心を打つ。それでも倒れる時は前のめりだ。勝負が決してもなかなか起き上がれず、起き上がったとしてもなかなか立ち去りがたく、納得もできない。そんな二人の間に流れる空気が、ああ、こういう形の愛情もあるんだなと身もだえするほどに思う試合だった。

メインは阿部史典&石川雄規組vs野村卓矢&村上和成組。村上選手のあの入場曲の、展開が変わって入ってくる瞬間が好きだ。そして石川さんがめちゃくちゃ若返っている。去年の大会でも思ったけれど、一時期指導に専念されていた時には穏やかな雰囲気をまとっていたのが、いざ格闘探偵団のリング、となるとあの頃の燃える情念が蘇ってくるのか、当時のぬらぬらした感じが復活している。そういえば第2試合の原学選手も、え、タイムマシンに乗ってきたのかな?と思うくらい若々しくてびっくりしました。

阿部選手が「俺たちのアイドル」と呼ぶ石川vs村上は相変わらず色褪せることなく大人げなく、キリがないのでおじさんたちを引き離して代わって入ってくる阿部vs野村のキレとスピード感。極められたら痛いし、悔しいし、殴られたら痛いし、殴った自分も痛い、ということがストレートに伝わってくる。

試合は野村選手が阿部選手に勝って去年のリベンジとなった。27分を超える熱狂と恍惚の時間だった。

試合後に興奮もそのまま、野村選手は「俺を何度も引き留めてくれてありがとう。愛してるぜブラザー」と阿部選手に向かって叫んだ。阿部選手が引き留めてくれなかったら、野村選手は今ここにいなかったんだろうか。そんなの寂しすぎる。阿部選手、野村選手を引き留めてくれて本当にありがとう。

阿部選手は先人たちへの尊敬と感謝を述べつつ、一方で後輩たちへ「小さくまとまって張り合いがなくて困ってる」と苦言を呈した。気がつけば阿部選手も、下の世代を率いる役回りになっていたのだ。そしてこう叫んだ。

「俺たち、プロレス界に突き刺すために、身体張って命賭けてやってるんだよ!」

この言葉はそのまま心に突き刺さった。これだけの愛情と覚悟をもって命を晒して戦っている彼らに、どうしたら報いることができるだろうか。本当に、役に立ちたいと思っているのだけど。

阿部選手と野村選手が「十七歳の地図」で退場した後には、フランク・シナトラの「My Way」が客出しの音楽としてかかっていた。それを聴きながら石川雄規選手が「もう思い残すことはない」みたいなコメントを出しそうになったので、二人が慌てて元気づけるところまでが格闘探偵団だった。