青木真也選手のことが怖かった。試合後のバックステージでいつもばっさりと対戦相手を斬っていて、KO-D無差別級王者の上野選手に指名された時でさえ「上野は弱い、上手だけれど強くない」とピシャッと言っていたので返す言葉が見当たらなかった。
そんな青木選手をタイトルマッチ前に「ニュース・スープレックス・タイガー」のゲストにお迎えした。緊張したけれど、いろいろなことが腑に落ちた。90年代の新日ジュニア全盛期のプロレスを見て育ったこと、中でもケンドー・カシン選手が大好きだったこと。猪木さんにはフェイスロックを教わったこと、そのフェイスロックで直後のONEの試合で勝利したこと。プロレスは誰にも習っていないこと、ずっと異物であり続けること。遠くに感じていた青木選手のことが、少し理解できた気がした。何よりも青木選手がプロレスをすごく愛していて、DDTのリングと選手たちを大切に思っているんだなということを。
そんな青木選手のこの日の対戦相手はHARASHIMA選手だった。HARASHIMA選手が名乗り出た時に青木選手は「ようやく来てくれましたね」と言った。これまでEXTREME級をかけて3度シングルを行い、コロナ禍には無人のさいたまスーパーアリーナで目隠し乳隠しデスマッチというとんでもないルールで試合をしている二人。HARASHIMA選手について「自分のグラウンドにも付いてこられる技術はあるし、キャリアがある分、自分が出来ることと出来ないことがわかっているので、防がれてしまうからやりづらい」と青木選手は言っていた。何かあったらHARASHIMAさんはやれる人だ、というのはDDTファンにとって、HARASHIMA選手に対する大きな信頼のよりどころとなっている。その上で青木選手は「年齢から来る衰えは当然あるはずだし」と言っていた。ここが肝だと思った。
HARASHIMA選手はずっと鍛えていてずっと元気で若々しくて前向きで、だからこそ「年齢から来る衰え」と言われるのが一番嫌なはずだ。そこを突いてくる青木選手はさすがだなと思う。案の定、調印式でHARASHIMA選手はムッとした表情を隠さなかった。
迎えた今日のタイトルマッチは素晴らしく面白かった。序盤のグラウンドで息をのみ、その緊張感を切り裂くHARASHIMA選手の裏フランケンに青木選手のトペスイシーダ。蒼魔刀に行くガッツポーズをフルネルソンで捉えられ、首もがっちり決まって逃げられずに3カウント。圧巻の14分間だった。二人とも、これぞプロフェッショナルのプロレスラーだった。
その後いつでもどこでも挑戦権を持った勝俣瞬馬選手が風のように飛び込んできて挑戦表明し、知育ブロックや机やラダーで大変な目に遭いつつベルトを防衛した青木選手の前にやってきたのはクリス・ブルックス。クリスも愛の人であり、青木選手もまたそうだ。次の11月4日の青木vsクリスのタイトルマッチは愛を計る勝負になる。
試合後に「あの蒼魔刀に行く瞬間は狙っていたんですか?」と尋ねたら「アピールするなって。プロレスするなって、勝負に徹しろって」と言われて、またちょっとドキドキした。