paint it black ~黒く塗れ

上谷沙弥選手が黒い不死鳥になって1ヶ月少し経つ。今でもまだ心構えが出来ていなくて、上谷選手の新しい入場曲が鳴るとちょっとドキドキしてしまう。少しシャープになった体躯と黒のコスチューム、蠱惑的な表情に引きつけられる。

 

華やかなビジュアルに恵まれた体格、身体能力の高さ。人もうらやむ素質をたくさん備えている上谷選手なのに、同時に苦労人のイメージもある。特にここ1年は大きなケガがあり、信頼するパートナーであり姉のように慕っていた林下詩美の退団があり、極めつけはファンサービスのさなかに心ない言葉を投げつけられた。なんてひどいんだろう、このまま上谷選手がプロレスを嫌いにならなければいいけれど、と思っていたら、ある日上谷選手は共闘していたはずの舞華選手に向かって「舞華、今日はお前を泣かせに来たんだよ」と言い放った。それは彼女が浴びせられたのと同じ台詞で、それを知った時に上谷選手の覚悟の深さに震撼したのだ。

 

そして上谷選手は黒くなった。デビュー時から白と緑、金色を基調としていたゴールデンフェニックスは、詩美選手の退団と同時に赤いコスチュームにモデルチェンジ。今のリング上は本当にありとあらゆるカラフルなコスチュームに溢れているけれど、やっぱり基本的に赤はチャンピオンで、エースで、王道の色だ。遂に上谷選手は赤を背負うようになったのだな、と思ったのもつかの間、上谷選手は黒く光る羽を持つphenexに生まれ変わった。フェニックスの綴りが変わった、と思ったら、不死鳥を意味するphoenixと異なる、Phenex(フェネクス)というフェニックスのような姿をする悪魔のことを指すのだという。

 

緑から赤を通って黒くなった。絵の具でどんどん色を混ぜていくと限りなく黒くなるけれど、光の場合は色を合わせていくと白くなる。上谷選手がまたいつか白く輝く翼を手にする日が来るのかもしれないけれど、しばらくはその黒く妖しく輝く翼に惑わされたいと思う。何にせよ、上谷選手が、そして上谷選手だけではないけれど、プロレスラーがなるべく自分の心のままに、リング上で躍動する姿を見たいだけなのだ。