血、汗、涙。FREEDOMS15周年

バキューン!

 

血と汗と涙と愛に溢れたFREEDOMS15周年記念横浜武道館大会だった。メインイベントが終わったリング上にはあり得ない数の大量のフォークとハサミと画鋲とノコギリが散らばっていて、そんな中でみんなが笑っていた。

FREEDOMSはいつも家族のようだなと思う。率いる佐々木貴選手の圧倒的お父さん感。リーダーシップがあって、責任感があって、愛情ある厳しさがあって、熱血漢だ。そもそも前の団体のトラブルから新団体を立ち上げることになり貴選手が代表を務めることになったのだが、デスマッチでプロレス界でも一目置かれる存在になっていた貴選手なら、自分だけならいくらでもフリーの選手としてやっていけたはずだ。それでも団体という形にしたのは「やっぱりみんなが集まる場、ケガをしても帰ってこられる場所を作りたかったから」と話していた。それ以来15年、コロナ禍もきちんとみんなが生活できるような環境を整え、ケガをした選手には欠場期間に新たなやりがいを見つけられるように導き、地方の選手にも活躍の場を広げてここまで団体を大きく、魅力あるリングに率いてきた。

世界中から憧れられる葛西純という特別なデスマッチファイターがいて、彼をもっと世に出したいと「狂猿」という映画の制作に尽力した。所属ではないけれど団体旗揚げからずっと参戦して、デスマッチにその身を捧げる竹田誠志選手が突然大きな不幸に見舞われた時にも全力でサポートした。思い悩む若手には厳しい言葉をかけつつも時間を与えて見守った。佐々木貴お父さんが率いるFREEDOMSは、いつの間にか大家族になっていた。選手だけではない。デスマッチ、ハードコアの試合形式なら絶大な信頼を勝ち得ているセコンド業務から、レフェリー、リングアナウンサーまで、みんなFREEDOMSという家族の大切なメンバーだ。

藤田ミノル選手が銅鑼を鳴らしたり巡査&胸毛ニキが北斗の拳の主題歌を熱唱したり地元出身のバラモンご兄弟がまさかの横浜武道館初進出だったりした。2年連続、ここ横浜武道館の試合でケガをして悔しい思いを重ねてきた平田智也選手が1年以上に及ぶ欠場の末ようやく復帰。まだ本来の70%くらいの動きです、とご本人は言っていたけれど、何よりも自分の足でリングを降りられて、この場に対するトラウマを払拭できたのが一番良かった。

KFCタッグは一関出身の佐々木貴&YAMATO組がビオレント・ジャック&吹本賢児組からベルト奪取。まさかのハードコアで流血に追い込まれた、DRAGONGATEの"全知全能"YAMATO選手の防衛ロードも楽しみだけれど、この試合が決まった時のジャックのダムズ愛に溢れるコメントも忘れられない。この15年のダムズの歴史の中で、大きな出来事のひとつがビオレント・ジャックの招聘だった、と貴選手も話していた。日本を愛しデスマッチを愛し、そしてFREEDOMSを愛してくれるジャック選手、本当に日本に来てくれて、そしてずっと日本にいてくれてありがとう。

セミファイナルの葛西純&正岡大介組vsアブドーラ・小林&若松大樹組のデスマッチは、とてもロマンチックだった。葛西選手のデスマッチは情緒に溢れている。世界一のデスマッチファイターになっても今もなお刺激を求め、新たな血を流している。今日の試合のラストに若松選手に一輪の真っ赤なバラを送ったシーンは、とても素敵な愛の告白だった。

 

15周年記念大会を締めくくるのは、竹田誠志vs杉浦透のKFCワールド王座戦だ。杉浦透選手のことをずっと、ダムズの末っ子みたいな存在だと私は思っていた。愛されるキャラクター、先輩から突っ込まれやすい人柄。プロレスラーとしてのスキルは充分に持ち合わせているのに、上手く行かなくて先輩に厳しい言葉をかけられることもこれまで何度もあった。でも、一度はあきらめたデスマッチにもう一度挑戦し、その右肘で苦手意識や恐怖心をぶち破ってからは本当にたのもしい存在に。横浜武道館を前に開催された記念パーティでも、最後にその会をきっちりと締める責任感あるスピーチをしていて、ああ、いつの間にか杉浦選手はこんな頼りがいのある存在になっていたんだなと感心したのだ。

タイトルマッチはダムズの、そして竹田選手、杉浦選手の15年分の思い、技、アイテムに溢れた試合になった。そもそもこの二人はお互いに身体能力が高くて何でもできてしまう。私はダンサーの三浦大知さんが菅原小春さんの素晴らしさを称した「よく利く身体を持っていて、そこに自分の感情を余すところなく落とし込むことが出来る」という言葉が大好きなのだが、竹田選手や杉浦選手にも同じことが言えると思う。プロレスとデスマッチに深い愛情があって、それを表現することが出来るアイデアがあって、しかも実現できるよく利く身体がある。

椅子、空き缶、竹串、フォーク、ハサミ、ノコギリ、有刺鉄線。トペ・コンヒーロ、ジャーマン・スープレックス、リバースUクラッシュ、スウィフトドライバー。たくさんのアイテムが、技が、思いが交錯した。激しくて眩しくて、でも悲壮感とは遠い、わくわくするような試合だった。お互いが生きるためのデスマッチ、それぞれの愛する娘のもとに生きて帰るためのデスマッチで、今日勝ったのは杉浦透選手だった。

 

「去年のクリスマスにベルトを獲って、それがずっと娘との希望みたいな存在になった。今回の防衛戦で一度も大ケガをしなかったのは、天国から嫁が守ってくれていたんだと思う」とベルトを失った竹田選手は涙をこらえて語った。ここにいない誰かのためにも、ここにいない誰かに守られて、生きるために、娘を育てるためにデスマッチを戦うのが竹田誠志選手というひとだ。今夜もお父さんは胸を張って、にこちゃんの元に帰るだろう。

新王者となった杉浦透選手は、大会を自分の言葉で、自分で締める権利が誰に遠慮することなくあるのに、対戦相手の竹田選手への感謝、団体と佐々木貴選手への感謝の言葉に溢れていた。この優しさこそが杉浦選手の魅力だ。心優しく、愛される末っ子は、お父さんへの感謝も忘れない立派な王者になった。そんな杉浦選手の言葉に貴選手も言葉を詰まらせていた。みんな笑顔だった。

杉浦選手の言葉であまりにいい雰囲気になってしまったので貴選手が「今日でFREEDOMSが終わるわけじゃないし俺も引退するわけじゃないんで!」と言っていた。そう、団体も選手もまだまだ明日がある。しかも今日はみんなが自分の足でリングを降りて、日常に帰ることができたはずだ。最高の非日常の次の日は、プロレスラーにもファンにも日常がやってくる。またやってくるはずの最高の非日常のために、私たちは頑張れるのだ。