2023年9月から1年間、国内武者修行としてプロレスリングNOAHのリングに上がっていた大岩陵平選手が、9月14日後楽園大会でNOAHラストマッチを行った。対戦相手は大岩選手をNOAHに導いてくれた、NOAHのスーパーノヴァにして現GHCヘビー級王者、清宮海斗選手だ。この1年のほとんどを共に戦い、最後の3ヶ月は対峙した。
これまで2回シングルマッチを戦って清宮選手の1勝1分け。しばらくはこの対決も見納めだ。試合はのっけから鋭いエルボー合戦、激しい場外戦。一片の躊躇も容赦もない清宮選手が、フェンスが壊れるんじゃないかと思う勢いで大岩選手を投げつけ、場外を引きずり回す。そしてそれにしっかり立ち向かっていく大岩選手。成長は決して大岩選手だけのものではなく、この1年、大岩選手と一緒にいる清宮選手を見るたびに、どんどん存在感が増していくのを感じていた。小川良成選手や武藤敬司選手、誰かに導かれていた側の清宮選手が、今度は導く側にいるのだ。凱旋帰国直後から箱船の超新星として期待され、いきなり先輩たちと戦いの最前線で揉まれてきた清宮選手。厳しい戦い、厳しい言葉の中で成長し続けた清宮選手に、新たな栄養を与えたのが導く側の存在、しかも他団体で一緒にいられる時間が限られている、大岩陵平選手だったのではないだろうか。
お互い爽やかでちょっと口下手で、一緒にいると青春ぽさがあった。共に戦っていたのが途中で道を違えたところも青春っぽかった。それも今日でお別れだ。清宮選手が何度も大岩選手を煽るように、檄を飛ばすように厳しく攻撃していく。満場のNOAHファンから「大岩、今日で帰るんだぞ!」と声援が飛ぶ。そして清宮選手の鋭いミサイルキックを両手を広げて全力で受け止める大岩選手。対戦相手の檄を、愛を、かわすのではなく鍛え抜かれた己の身体と心で全力で受け止めるのがプロレスの醍醐味だ。あっという間の27分を超える戦いは、清宮選手の技ありの4の字式エビ固めで終わりを告げた。
大岩選手に感謝を伝え、その成長を称えた清宮選手は「この1年で俺も成長できた。そして陵平、お前はどこにいってもNOAHの魂を持ったレスラーだよ」と告げる。満場のお客さんは万雷の大・大岩コールで大岩選手を送り出す。新日本プロレスに帰っても、NOAHファンは大岩選手のことを応援し続けるだろう。NOAHと新日本、2つの団体から応援される大岩陵平選手は、幸せなレスラーだ。
NOAHでの武者修行を卒業し、新日本プロレスにすぐ戻るのかどうかはわからないけれど、新日本では同期の、しかもデビュー戦の相手でもある藤田晃生選手が目覚ましい活躍を見せている。TMDKの一員として、新日本ジュニアのメンバーとして確固たる存在感を示している藤田選手に以前大岩選手について尋ねてみたら、「ヤングライオンの時はライバルでしたけれど、今は自分もTMDKの一員ですし、大岩がNOAHでどうしているかは特に気にかけてはいません」とクールに答えてくれた。果たして再会してお互いどんな刺激を与えられるだろうか。そして約束した通り、いつかもっと大きな会場で、清宮選手と大岩選手が向かい合う日が来るだろうか。リングはどこかで繋がっている。楽しみは続いていく。