25周年はしつこい、29周年はめんどくさい ~大日本10.1後楽園


レモンと塩とわさびとからしにまみれたアブドーラ小林選手は「いいとんかつじゃねえか!」と叫んだ。こういう時のアブドーラ小林選手の言語センスは図抜けている。試合終盤に負ったケガのインパクトがかなりあって、試合が決した後もお客さんはどよめいていたのを「ビビってんじゃねえぞ、こんなのは赤い汗だ!」と言い切る強さ。

大日本プロレスの後楽園大会、第4試合は青木優也選手と神谷英慶選手のBJWストロングヘビー級の前哨戦だった。大日本はこの週末の連休、13日と14日の札幌2連戦でタイトルマッチが多く組まれている。若い青木選手はまっすぐで熱くてピュアで、巨人の星の星飛雄馬のように瞳に炎が見える。チャレンジャーの神谷選手は実はいまデスマッチのチャンピオンでもあるのだが、とにかく強い。デスマッチとストロング二刀流の神谷選手の強さはその強靱な肉体に加えて、安定感と心のぶれのなさにある。若手の頃は個性の強い大日本の選手の中では大人しいイメージがあったのだが、今はリング上のマイクもSNSでの発信も本当に力強く、ぶれない。悪い言葉で相手をけなしたりすることはなく、静謐な中におそろしいほどの芯の強さが見える。今日は直接ではないにせよ、自身のチームが青木選手に敗れてしまったのだが、「敗れはしたけれど青木がどんどん小さく見えました。自信しかないです」ときっぱり。敗れてなお自信しかない、という挑戦者を、「勝つ続けることが強いわけじゃない、倒れてから立ち上がることが強いんだ」と目に炎を宿して叫ぶ王者は退けることが出来るだろうか。

セミファイナルの画鋲一万個デスマッチでは、画鋲が豆まきの豆のように飛び散る恐ろしい状況に。リング上のレスラーのシューズの裏はびっしりと画鋲で埋め尽くされていたし、リングサイドのお客さんもかなり画鋲を踏んでしまったと思う。ここでライフハック、「靴の裏の画鋲は、ペットボトルのキャップでこそげ取るようにすると綺麗に早く取り除ける」。これはデスマッチを数多く裁いている、バーブ佐々木レフェリーから教わった生活の知恵です。皆さん覚えておいてくださいね。

そしてメインが蛍光灯100本+レモン+αデスマッチで、そのプラスアルファがわさびでありからしだった。今日の後楽園は海外からのお客さんがずいぶんいらしていたのだが、全世界共通でわかる、傷口にレモン&塩の辛さ。後楽園名物のレモンサワーを飲みながら見るレモンデスマッチの味わいはいかがだっただろうか。

この試合も札幌のタッグ王座戦の前哨戦として、チャンピオンの高橋匡哉&SAGATvsアブドーラ小林&若松大樹という顔合わせだった。アブ小選手だけがベテランで、高橋&SAGAT組はキャリア10年強、若松選手は今年ようやく5年目というフレッシュなデスマッチファイターだ。もうすぐ生産が終わってしまうという蛍光灯を惜しげもなく割りまくって、レモンも飛び散って、更に仕上げにわさびとからしまで登場してリング上は凄惨な有様。そして冒頭のアブドーラ小林選手のマイクに繋がる。

ケガの状況が心配で動揺もある客席、それをものともせず通常通り叫ぶアブドーラ小林選手、食い下がる王者チーム、そこに伊東竜二選手が飛び込んできて箱いっぱいの塩をぶちまけた。カオスに次ぐカオス。伊東選手は表情ひとつ変えずにこういうことが出来てしまう選手でもある。札幌のタッグタイトルマッチ本番では伊東選手がアブ小選手と組んで、アブ小伊東組というベテランチームで若い高橋&SAGAT組に挑戦するのだ。

「25周年の伊東竜二はしつこいぞ。そして29周年のアブドーラ小林はめんどくさいぞ!」

ひとことで、ひとつの仕草で状況をひっくり返すことが出来る、しつこい&めんどくさい挑戦者チームに、王者チームは心乱されることなくチャンピオンとして立ちはだかって欲しいと思う。

もうずいぶん長く見ているマッドマン・ポンド選手、今でも来日するとハーイと笑顔で手を振ってくれる。この日も試合後に手招きをされて、いや、今まだ仕事中なのよ、と言ったら「一緒に写真撮ろう」と。嬉しかったです。みんなケガしないで元気でいてくださいね。