情熱と覚悟と武知海青選手。~DDT 9.29後楽園大会


THE RAMPAGEの武知海青さんのプロレスラーとしての第2戦がDDT後楽園大会で行われた。初戦は今から7ヶ月前の2月25日。今回も後楽園は超満員札止め、いつもより1オクターブ高い歓声が第1試合から響く。

彰人選手と勝俣選手によるDDT EXTREME選手権は伝説の蛍光灯IPPONデスマッチのルールで行われ、蛍光灯の割れた瞬間にどちらがその蛍光灯を持っていたか、身体にどう触れていたかなど言葉にすると難しいルールなのだが、試合が始まってみれば「あ、これつまり蛍光灯割ったらダメなんだな」というのがわかって初見のお客さんも熱狂した。名手の彰人選手と勝俣選手はもちろんなのだが、それぞれのパートナーだった夢虹選手、須見和馬選手の適応力、対応力が素晴らしかった。うっかりが許されないこのルールの中で自由に伸び伸びと躍動していた。若者のハートは強くて頼もしい。

試合後には王者となった彰人選手が、大切な先輩である男色ディーノ選手を呼び込んでこのベルトに挑戦して欲しい旨を語りかけたのだが、その涙ながらのアピールにディーノ選手がきっぱり、「人間生きてりゃ生きがいなんていくらでも生まれるんだよ!」と愛犬ハクちゃんを抱きながら魂の叫びで応答。更にバックステージでは「生き方を他人に決めつけられるのが一番嫌い」とも語る。エモーショナルをクールにかっ飛ばす、カッコいい男色ディーノがまた帰ってきた。いや、帰ってきたんじゃなくて、ディーノさんはいつもここにいたのだ。

注目のメインの前に置かれたセミファイナルは、飯野選手vs納谷選手のDDT UNIVERSAL選手権。DDTが誇るスーパーヘビー級対決は後楽園をどっかんどっかん沸かせた。飯野選手の「アイアム!バーニング!」の後の「イェー!」は、初見の人も多かろう満場の武知選手ファンも一緒にご唱和で、かなり高い声で可愛かった。試合後の敗れた納谷選手の悔しいけれど清々しい笑顔が印象的だ。

メインイベントは、上野&MAO&武知組vsクリス&正田&高梨組。サウナカミーナvsシャーデンフロイデのユニット対決にさらっと武知選手が組み込まれている。黒い大きな羽根のついたガウンで最後に入場する武知選手は、伝説のラスボスのようだ。

デビュー戦の時にも感じたことなのだが、武知選手の身体能力の高さや舞台経験の豊富さから、動けること、四方から見られることへの経験値は最初から高かった。ただ、加えて私がいいな、凄いなと思ったのは、例えばリングの乗り降りやコーナーにいる時の動き、ロープをくぐってリングインする時の仕草などがとても自然で美しかったことだ。技やロープワークは練習することができる。でも、そういったちょっとした所作はなかなか実際の試合にならないと体験できない。思ったよりエプロンが広いとか、リングが高いとか、ロープの技とか、コーナーの位置とか、実際のリングに立たないとわからないことはきっとたくさんあるだろう。でも、そういった、プロレスラーなら当たり前にやっている動きが、武知選手も全く当たり前にこなしていて、やっぱり凄いなあと思った。デビュー戦の映像をバトルメンで解説の金沢克彦さんと一緒に見た時に、「芸能人がプロレスやると舐めるなみたいなこと言う人いるかもしれないけど、はっきり言って芸能人舐めんなって話ですよね」とおっしゃっていて本当にそうだなと思う。超一流のエンタテインメントの世界で日々勝負している人の凄みを改めて感じる。

サウナカミーナの連携にもさらっと入っていたり、3人で一緒のポージングもしたりしたかと思えば、クリスに場外でしこたま酷い目に遭った。後楽園最上段まで届く長ーーーーーいゴムパッチンが武知選手の顔面を直撃した時には、今日最大値の悲鳴が上がった。これまで戦ったことがない高梨選手のようなタイプに手を焼いた。若い正田選手とむき出しの感情をぶつけ合った。ふわっとした、重力を感じないトペコンも、クリスを高々と持ち上げたチョークスラムも本当に見事だった。

長すぎるゴムパッチン、クリスは南側最上段まで駆け上がっていきました

武知海青選手の胸はクリスの逆水平チョップで真っ赤に


「ただいま!」と試合後にはプロレスラー武知海青として挨拶、「情熱と覚悟には自信があります」というコメントには痺れた。更に、自分にプロレスを教えてくれた大石選手がDDTを退団する前に最後に一緒のリングに上がりたい、と大石選手を呼び込み、この思いを伝えないと一生後悔すると思うので、と言いながら大石選手をハグして涙をこぼしていたのが印象的だった。デビュー戦から試合後までいつも朗らかで、痛い思いをしながら明るく振る舞っていた武知選手が、師匠と向き合った時の涙。武知選手の人情味、温かさに触れた気がした。

当の大石真翔選手は教え子としての武知選手について、「教え始めて10分でもう卒業させました! 僕の最高傑作です」と笑顔で、誇らしそうに語ってくれた。大石選手はDDTのリングに上がる、プロレスラーではない人たちの手ほどきを実はずっとしてきた。いきなりプロレスのリングにやってきて、しかも新人扱いではなく、それなりのインパクトを残さなければいけない人たちに、その人に合った教え方をして、ちゃんと試合をしてもらって、ケガなく、プロレス楽しいなと思ってリングを降りてもらうまでサポートするのは大変な仕事だ。その他にもリング内外を通して大石選手の功績は本当に大きい。バスの運転から、金屏風のある記者会見場を急きょ抑える、みたいなことまでしてきた。所属として最後の愛弟子、プロレスラー武知海青選手と同じコーナーに立つのは本当に素敵なことだ。

武知選手は会場にいる人も、映像を見ている人も、まだ見られない人にも、全員に届けるプロレスをしたい、と言った。巡業バスにも乗ってみたいとも言った。武知選手の言葉で改めて、プロレスの魅力と可能性を感じている。