群雄割拠其の四〜ふるさと祭り東京2019@東京ドーム

sayokom2019-01-15


「テレビでやってるプロレスだけが、東京でやってるプロレスだけがプロレスじゃないんです!」
栃木県からやってきて、この日晴れて天下統一の旗を手にしたEAGLEプロレスの吉田和則が、東京ドームのリング上で叫んだ。毎年1月に日本中の美味しいものや賑やかなお祭りを集めて東京ドームで開催される「ふるさと祭り東京〜日本のまつり・故郷の味〜」で、初めてプロレスの試合が行われたのだ。

「『群雄割拠』を始めてみたものの思うように集客が伸びなくて、第1回から2回、3回とやるうちに本当にこれを続けていていいんだろうかって悩み始めていたんです。そんな時に3回目の後楽園大会に東京ドームの方がいらしていて、『この群雄割拠のコンセプトはうちで開催しているふるさと祭りと同じじゃないですか!ぜひふるさと祭りでプロレスやりましょう!』って向こうから声をかけて頂いたんです」

試合の間もずっと「ふるさと祭り」のハッピを着続けていた佐々木貴は、イベント終了後に充実した表情でこう語ってくれた。プロレスリングFREEDOMS佐々木貴がプロデュースする「群雄割拠」とは、2017年8月に始まった全国のローカル団体を集めて覇権を争う大会で、これまで興行が3回行われている。そういえば、第1回の興行の時に「群雄割拠」について佐々木は、「プロレス版の地方物産展です」と言っていたのだ。地方から東京へ、そしてまた東京から地方へ。このコンセプトは確かに、「ふるさと祭り」とぴったり合う。

狭い日本と言うものの実際のところ、思いのほか日本は広く、そして色とりどりだ。毎年この時期にドームで「ふるさと祭り」が開催されていることは知っていたけれど、いつも横目で見ながら後楽園ホールに向かっていた。今回、初めてドームに入って見てその賑わい、その出店数の多さ、多様さに驚いた。そこにはカニもいくらも、餃子ものどくろも、唐揚げもザンギも、メロンソフトも抹茶ソフトもみんなあった。ねぶたもお神楽も、太鼓も三線も、盆踊りもよさこいもあった。日本広いなあ、みんな違ってみんないいなあ、楽しそうだなあ美味しそうだなあとしみじみ思った。

そんな中でプロレス、だ。文字通り、北は北海道の道南リングから南は沖縄の琉球ドラゴンプロレスまで、日本各地からプロレス団体がやってきた。リングサイドに座る熱心なプロレスファンもいれば、美味しいものを食べに来たけどプロレスやってるみたいよ?と見に来た老若男女のお客さんもいる。マンモス佐々木の大きさに驚き、グランパショマスク4号にかけられる「ヨンさまー!」というかけ声に「あのマスクはヨン様なんだ!」とまた驚く。ヴァンヴェール・ネグロとヴァンヴェール・ジャックのリアル親子対決ではひときわ華奢なジャックに「え、あのマスクの子、子供?」と不安げに囁かれるも、その鮮やかで美しい空中殺法で歓声に変わる。愛澤No.1と"救世忍者”乱丸のやり取りに笑い、竹田誠志の傷だらけの背中にまた驚く。

佐々木貴は「どんなお祭りでもどんなイベントでも、プロレスは絶対に盛り上がるんですよ。お笑いもアイドルもいいけど、一番盛り上がるのはプロレスなんです」とはっきりした口調で言った。確かに、全てを包括出来るのはプロレスなのかもしれない。笑えて、うっとりして、そして声の限りに応援する。もっと私たちはプロレスに自信を持っていい。

メインは天下統一幟旗争奪戦、王者の琉球ドラゴンプロレスにEAGLEプロレスが挑む。イーグルといったら地方各地にプロレス団体が出来る前から活動している老舗団体だ。ベテランの域に達していても変わらず美しいスワンダイブを放つ吉田和則、そして「チーム若作り」からしばらく経つというのに変わらず若々しい近藤博之の腕サソリ。試合はトランポリンも駆使してイーグルが勝利し、天下統一の幟旗を琉球から栃木が奪取した。そして、冒頭の吉田の叫びである。胸に染みた。

佐々木貴は「プロレスの可能性はまだまだこんなもんじゃ終わらないです」と言った。そして「今日こういう催しがあって、平日の夜にプロレスでこんなに盛り上がった、たくさんお客さんが集まったってことを皆さん発信して下さい」と私たちマスコミの顔をひとりひとり見ながら、笑いながら念を押した。「皆さんも自覚を持って、責任持って発信して下さい! みんなで、俺らも、お客さんも、メディアの皆さんも頑張ってみんなでプロレス背負って頑張りましょう!」とハッパをかけた。かつてそのリーダーシップから「生徒会長」と言われた佐々木だけれど、今でもその統率力は変わらない。佐々木のそういうところが大好きだ。

「俺はこんなちっぽけな団体だけれど、今日はプロレスを背負わせてもらってリングに上がりました」と佐々木貴は言った。確かにプロレスリングFREEDOMSは大きな団体ではないかもしれないけれど、信念を持って、はっきりとしたコンセプトがあって「群雄割拠」をプロデュースしていたからこそ、毎年期間中40万人を集めるビッグイベントの方から「一緒にやりましょう」と声をかけてもらうことが出来た。今日の盛り上がりを見て、声がけしてくれたドーム側の人たちは即座に、また来年やりましょう、今度はこんなことをやりましょう、と興奮気味に口々にアイデアを出してくれたという。意志あるところに、チャンスはやってくる。そして、プロレスはまだまだ可能性がある。あなたの近くに、どうかプロレスが届きますように。